震災を経験して思うこと

写真:紙とペンが無くても、コミュニケーションは取れる

お話:松田千絵さん(女性/当時40代/聴覚障害)

 震災の前と後で、精神面あるいは体調面で変わったと感じることはありますか?

あります。すごく痩せたんです。娘も同じです。当時中学校1年生だった娘にはいろいろ助けてもらいましたが、ただ、やはりパニックになる所もありました。一番娘がイヤだといったのは「警報」です。雨が降ると水かさが上がりますとか、道路が通行止めになりますっていう放送が鳴るたびに怖がっていました。余震があればすぐに目が覚めて、荷物を持ってすぐに家を出ることの繰り返しで、本当に精神的に疲れました。

LEDの携帯用ランプや懐中電灯を部屋にたくさん置いて、寝る時も光がある、何かあったらそれを持ってすぐに逃げられるようにしていました。それは今も変わらず置いています。食べ物もそうです。備蓄というのは今もしています。

 

防災意識が高まったということですよね。緊急情報の取得というのは、震災前はどのようにされていたんでしょうか。

テレビ、スマホです。アプリなどを活用していました。娘が学校などでいない時は耳からの情報が入らないので、スマホとかテレビを観て情報を得ます。街中のことでいえば、電光掲示板のようなものがあればいいなぁと思うことがあります。私の場合は、筆談などで「何があったの?」と聞きに行ったり、周りで話している人の会話を読み取るために気を巡らせないといけない。何度も何度も聞いているうちに、聞こえている人もこちらも互いに気を遣ってしまうんです。できれば音声放送以外にも、見てわかる物も示してもらえるとありがたいですね。

 

震災を経験して、聴覚障害の方に向けて備えておいた方がいいと思うことやアドバイス等があれば教えてください。

熊本地震のニュースなどで、家族に聞こえない人がいる時に、情報が入らなくてご飯の配給が3日間もらえなかったというのを見ました。避難所ごとに状況はまちまちだと思うので、隣近所の人たちには、自分が聞こえないということを伝える、ちょっと面倒だけどニコッとして(笑)伝えることが大事かなと思います。苦しい表情とか不満な表情を見せるのではなく、「よろしくお願いします」っていうふうになれば、周りの人たちも「いいよいいよ」って言ってくれると思います。「多くの健常者の中にろう者の自分が一人だけいると、遠慮してしまったり、何か恥ずかしい」というろう者の方のお話を聞きました。「障害の無い人と障害のある人の部屋を分けるっていうのも一つの案なのかな」と言っている障害者もいました。

 

聴覚障害の方を健常者がお手伝いする際に、どういったことを意識しておくといいか、教えてください。

聴覚障害は見た目ではわからないという部分があるので、自分が聞こえないんだということを周囲に向けて表す必要があると思うんです。自分から発信していく。中には黙っている人もいるんです。個人の性格的な部分でもあるんですが。「聞こえていないのに、サポートされない」という不満を持つ方もいるんです。なので、支援してくださる方には、最初に「聞こえない人いますか?」「障害のある人いますか?」「病弱の方いますか?」「薬飲んでる人はいますか?」なんて紙に書いて出してもらう、確認してもらう、そのうえで対応してもらえるとその後が楽だと思います。みんなに見てもらって共有できたうえでサポートしてもらえる形だといいなと思います。

 

聴覚障害を持った方とコミュニケーションを図ろうと思った際に、手話ができなければ、簡単な方法としてはやはり筆談になりますかね?

そうですね、やはり筆談とか、あとは身振り手振りもいいですよ。

 

健常の人に知ってもらいたいことや訴えたいことはありますか?

あります。聞こえる人は津波が来るいうことも会話や警報を聞けばわかる、でも聞こえない者はそれがわからない。どうしたらいいんだろうってなった時に、聞こえる人が手をつないだり服を持ったりでもいいから、一緒に行動してもらえるとありがたいと思います。聞こえない人は自分で勝手に動くというよりも、聞こえる人達の様子を見て、真似て一緒に避難するっていうのが多いと思います。紙とかが無い場合は仕方がないから手の平に書いたり身振り手振りだったり、表情だったりで示してもらって一緒に逃げる。その後別れるとかでも構わないです。それが発災直後の話ですね。

あとは懐中電灯が必要なんです。筆談をする時や、携帯電話の画面に文字を打って、それを聞こえる人に見せるとコミュニケーションが取れるんです。暗い場所で見てもらうためにも、懐中電灯は欠かせませんね。今、便利なアプリがあって、打った文字を大きく見せることができるんです。筆談するものが無い時には、こういう携帯電話とかを使って、情報を伝えたり、情報を得たりしていくんですよ。ただ、バッテリーが無くなるとそれで終わりなんですね。電池残量が少なくなるとハラハラしてしまいます。

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